恥辱

今から13年前
オーディションを受け合格と不合格を交互に繰り返しなんとか月に一度の舞台を踏み月収は500円という人生で一番貧しい時期を過ごしていた頃の話。
オーディションで会う芸人も毎回一緒なため自然と顔見知りになり出番までの待ち時間は情報交換なんかをするようになります。
その場で先輩の痩せた男がこう漏らしました。
「なんかすごい新人が出てきたらしいで。オーディション全部合格してNSC在学中やのにもうネタ番組に出るらしいわ。しかも見るからにスターやねんて」

芸人墓場のような場所にいた僕らは餓鬼のような目を光らせすぐその新人の舞台をこっそり見に行きました。

ステージに出てきただけで眩しいばかりの華やかさ、ハイスピードの漫才テンポ、そのキラキラしたステージに我々餓鬼は除霊されそうになりました。
僕らが合格できなかったゴングショーを軽く突破し彼らが劇場のレギュラーになった瞬間を目の当たりにしました。

「コンビ名もなんか売れそうな名前やなぁ…」

『キングコング』

その名をしっかりと胸に刻み僕は田村とネタ合わせの公園にとぼとぼ歩きました。
「俺らもなんか色々やっていこうや」
熱くなった田村は続けます。
「今度俺の地元の吹田で市民祭りがあんねん。そこでお笑いコンテストがあるねんけど出ようや、とりあえず舞台に立とう」
僕だってとにかく漫才したい。

しかし街の人気者や子供が頑張って漫才をするような微笑ましいコンテストに本気の芸人が参加するのは抵抗がある。
葛藤が渦巻く中、田村は言いました。
「優勝賞金10万円やで」
「出るわ!」
僕は反射的に返答していました。
なんせ月収500円。
とにかく金が無かったんよ。

お笑いコンテスト当日。

ネタ中に緊張で泣き出す子供をあやす親子漫才師。
何を言ってるか不明の酔っ払ったおじさん。
そんな中僕らはオーディションで負け知らずの本気の漫才を持って勢いよく舞台に飛び出しました。
「はいどーもー!」
マイクの前に立ち顔を上げ客席を見て心臓がとまりそうになりました。
客席にキングコングがいるのです。

なんとこのコンテストのゲスト審査員として彼らが呼ばれていました。

恥ずかしさで死にそうでした。
しかも結果は2位でした(親子漫才師に負けた)
二位の賞金3万円を二人でわけて僕らはとにかく辛いカレーを食べに行きました。

でんごんばん CIDER inc.