こしょうそば
テレビで自分が住んでる街が特集されてました。
そこで紹介されていた中華料理屋。
お世辞にも綺麗とはいえないけどとにかく料理が美味しそうで、中でも名物は「こしょうそば」
あんかけスープの中華そばの上に山盛りのこしょうがかけられた代物。
一見辛くて食べれそうにないのですがこれがクセになる味だそうです。
翌日僕は開店1時間前に行きました。
もう8人並んでました。みんな若い人ばかり、昨日のテレビを見た人でしょう。しかし僕の後ろに並んだ人はスーツを着た50歳ぐらいの紳士でした。
その後も行列はのびるばかり、さすが人気店。
一時間後に開店。店内はカウンターだけの10人しか座れない店で僕の後ろの紳士までが入れました。
カウンターの中には店長とみられる60歳ぐらいのおじさんだけ。一人で店を切り盛りされてるのでしょう。
皆が注文しようとしたその時、店長が大声で言いました。
「あんたら全員こしょうそばだろ?!それでいいよな!つくっていくから!」
圧倒的なパワーに張り詰める空気。一言で頑固オヤジだとわからせる迫力。全員何も言い返せません。
しかし僕の右に座ったあの紳士だけは
「ホ、ホイコーロー定食もらおうか!」
攻めました。
ホイコーローとは豚肉とキャベツの味噌炒め。
紳士は店長の目をまっすぐ見て大声で返しました。
店長は無愛想に「…あいよ」と漏らしました。
緊張の中待つこと10分、僕の前にこしょうそばが来ました。こしょうの刺激的な香りが食欲をそそります。
口にすると辛さがまず攻めますがすぐ濃厚な鶏ガラスープが口に広がりなんとも美味。クセになるのが一口でわかりました。
僕が恍惚の表情を浮かべていたその時。
紳士の前にホイコーロー定食が運ばれてきました。
箸を割り紳士が食べようとした時店長が
「おいおい!うちのホイコーロー定食には食べ方があんだよ!知ってんのか?」
こだわりの店特有の独自のルールがあるのです。
先に言いますがホイコーロー定食のルールは「豚肉をご飯の上に乗せて一緒に食べる」でした。
それが一番美味しく食べれるそうです。
紳士は声を震わせ「し、知ってるよ」と答えました。
明らかに知りません。
店長がさらに攻め立てます。
「知ってるのか!じゃあ言ってみろ!ホイコーローのルールをよ!」
追い詰められた紳士、大声でこう言いました。
「の、残さず食べる事!」
店長は「そ、そうだな」と答えました。