キウイ
小学5年の時の担任の先生はいつもうつむき気味の大人しい、いかにも文科系といった女の先生だった。
年齢もまだ30前だったことから生徒達は皆この先生をなめていた。
授業中でも先生の話を聞かずだらだらとお喋りしていた生徒。
それでも先生はホームルームなどで最近あった出来事を京都弁の優しい語り口で毎日話続けてくれた。
僕はこの先生が好きだった。
いつの頃からか一生懸命話す先生に惹かれていた。
そんなある日、ホームルームのチャイムがなると先生は少し興奮気味に教室に入ってきた。
「今日登校中に見ましたよ!すごく珍しい鳥!こんな場所じゃ絶対見れへん鳥やの!」
いつも大人しい先生の異常なテンションに面食らう生徒達であったが話題が『珍しい鳥を見た』という興味を惹かないテーマであったため生徒達はまたいつものように喋り出し騒々しさの渦で先生の話をかき消そうとしていた。
「いつもの道を歩いてたらいたん!なんやこの子はって思ったわ!」
そんな環境にも負けず目をキラキラさせて話続ける先生。
僕も周りの雑音に負けまいと先生の話に意識を集中させた。
「大きさはニワトリぐらい、色は茶色っぽいん、くちばしがとにかく長いんよ」
先生の実況検分を整理し頭の中に鳥を組み立てていく。
「知らんかもしれんけどキウイやと思う。果物やなくて鳥のキウイ」
チャイムが鳴った。
僕は鳥の特徴と『キウイ』とだけ殴り書きしたメモをポケットに入れた。
昼休み、図書室に行き図鑑を広げキウイを調べた。
ニュージーランドに生息する飛べない鳥だということがわかった。
こんな鳥が京都の路上をすたすたと歩いているわけがない。
しかし先生は見たと言ってるんだ。
気づけば僕は図鑑を見ながらノートにキウイを描いていた。
この絵を渡せば先生は喜んでくれる。
『僕だけは先生の話を毎日楽しみにしています』という遠回りなメッセージ。
夢中になって僕はキウイの絵を描いた。
そして放課後
ドキドキしながら職員室の扉を開き先生のもとへ。
「あ、川島くん。どうしたん?」
優しい顔に逃げたくなったが顔を赤らめうつむきながらカバンから一枚の絵を差し出した。
「これやろ?先生の見た鳥って」
さあ僕の気持ちよ伝われ!
しかし先生の反応は
「あ…うん、これ…川島くんが描いたん?す、すごいなあ…。おおー…」
まさかのドン引きでした。