絵文字

「川島君からのメールはなんだかこわいわぁ」

19歳の時に片思いをしている女性にそう言われた。

夜中に突然メールをしてくる人であったがこちらも好かれようとマメに返信を頑張っていただけに意外な忠告であった。
メールすることにすら照れていた事もあり「おやすみ。」や「頑張って。」など確かに必要最低限のメッセージしか送ってはなかった。

しかし可愛いメールなど付き合ってもない異性に送るほどの度胸もなかった。

そんなことを同期の芸人に相談したら

「絵文字使ったら?」

と即答された。

「え…絵文字?」

僕には絵文字がわからなかった。

今でこそ絵文字なんていうのは当然のように文章の上で過多な程トッピングされてはいるが当時はまだ携帯メール文化が徐々に浸透しだした頃であり僕のように絵文字の存在すら知らなかった男子は少なからずいたと思う。

「絵文字やん。なんていうか絵のような文字。文字が絵みたいになってるって言うたほうがええんかな。ていうかまじで知らんの?」

同期の嘲笑に耐えかねて僕は教えを遮るように会話をやめて家に帰った。

しかし絵文字がわからない。

絵のような文字…?
文字が絵のように…?

考えに考えた末、僕のひねり出した絵文字は冗談ぬきでこれであった。

『凸』

『凹』

『卍』

でこ、ぼこ、まんじ。

絵のような文字と言われこれしか想像できなかった。

「こんばんわ凸」

たしかになんだか文章が可愛くなった気がする。

これでいいのか。

これでいいのだろう。

その日の深夜、意を決し意中の彼女にメールを送った。

『こんばんわ凸

テレビで映画見てたらこんな時間になってました凹

今度ご飯にでも行きませんか卍

今見ても不気味な文章。

特に最後の『卍』から醸し出る不気味なインパクト。

当然

それ以来彼女からメールが来ることはなかった\(^o^)/

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