ミッション

新宿にあります『ルミネtheよしもと』
連日休みなく1日3回公演でお笑いを楽しめる劇場です。
僕らも月に10回は立っています。
ある日の事。
漫才出番のため劇場に入るとスタッフさんが騒然としています。
何事かと尋ねると、僕らの次の出番の芸人が遅刻をしていてこのままでは出番に間に合わないとの事でした。
誰かがネタ時間をのばしてくれればその芸人は間に合ってトラブルはおさえられる。そう誰かが!
スタッフさんの悲痛な叫びは明らかに「お前ネタ長めにやれよな」というメッセージ。
しかしそんなものはおやすいご用。
5分であろうが30分であろうがネタ時間を突然言い渡されそれができるのが漫才師。
『遅刻芸人が到着するまで漫才を続けること』という使命を受けスタッフさんの希望を背に僕達は颯爽と舞台に出て行きました。
漫才をすること10分、通常のネタ時間は終えていますが舞台袖を見るとスタッフさんが『のばして』とカンペを出しています。
目で了解のサインを送り違うネタに自然にスライド、そしてネタ時間が20分を越えた時でした。
スタッフさんからこんなカンペが出ました。

『もうええわ』

どっちの意味でしょう。
とにかく「もうええわ」と言えというサインか、もうお前らのネタはたくさんだという意味か。
どちらにしても終わって良いサインが出たので漫才をしめました。
舞台袖にもどると遅刻していた芸人さんが到着していて無事僕らのミッションは達成されました。
しかしその後事件が。
僕らが楽屋に戻ろうとすると目の前に村上ショージ師匠が立ちはだかりこう言いました。
「長いねん!みんな10分で決めとるやろ!20分もやっとるやないか!」
ショージ師匠は事情を知らなかったのです。
きっと僕らのことはお客さんの反応がいいから調子に乗ってネタ時間を自由にやってる芸人に見えていたのでしょう。
しかしあまりの剣幕に事情が説明できないでいるとそこにスタッフさんが駆けつけました。
「違います!麒麟は遅刻した芸人を間に合わせるためにネタ時間をのばしてくれたんです!」
また違うスタッフが
「そうです!私達がお願いしたんです!」
さらにまた違うスタッフが
「彼らは全く悪くありません!」
三人のスタッフに囲まれたショージ師匠は申し訳ない顔を浮かべ小さな声で僕らにこう漏らしました。
「…ドゥン」
そんなパターンもあるんですね。

でんごんばん CIDER inc.