引っ越し
15年前、初めて一人暮らししたマンションの劣悪さについては以前書きましたがその最後も壮絶なものでした。
経営者の一身上の都合により突然取り壊しが決まり、僕はそのマンションを半ば強引に追い出される形となったのです。
前々からそのお知らせは送付されていたのですがポストを開かなかった僕がそれに気付いたのは退去期限の前夜でした。
そんな経験ありますか?
12時間後には引っ越さなければならないなんて経験が。
とにかく荷物をまとめるため後輩3人に駆けつけてもらい荷造りを手伝ってもらいました。
作業は二時間で終了、軽トラの荷台に全ての荷物を乗せ部屋は空っぽになりました。
「じゃあこれ運びましょう。ところで川島さん、引っ越し先はどこすか?」
「あ…、いや…、まだ決めてないねん」
時がとまりました。
唖然とした顔を浮かべ僕を見る後輩達の顔には「こいつマジか」とはっきり書かれていました。
しかしその時、一人の後輩が「友達に不動産屋がいるからなんとかなるかもしれません」と電話をかけてくれました。
引っ越し難民の僕に差し込む一筋の光。
しかし時刻は23時。
「今すぐ入れる物件無い?え?今って今やん。い・ま!もしもーし!」
当然イタズラ電話扱いされる後輩。
しかし奇跡が。
一件だけ今すぐ入れる物件があるというのです。
九死に一生、いや死者が息を吹き返すほどの奇跡。
そんなゾンビ川島を乗せた軽トラは指定されたそのマンションに向かいました。
辿り着いたのは少し古めながら立派なマンション。
いまだ半信半疑な顔を浮かべている不動産屋さんに案内してもらい内見したのは2LDKの広い部屋。
しかし誰も住んでいないのだから電気はきてません。
月明かりと懐中電灯だけが頼りのシュールな内見。
「このリビングいかがでしょう」
「いい…んだとおもいます」
もはや肝試しに近い状況でしたが僕には断る理由がありません。
こうして僕の新居は奇跡的に決定したのでした。
しかし後日、ある問題が発覚。
その日に入れるぐらい審査の甘い物件が故に、なんとマンションの上の階の一室に風俗が入っている事がわかりました。
先輩がネットで調べて辿り着いたのが僕のマンションだったので驚いて報告してくれました。
「麒麟の川島がよく来てるらしいよ」と風俗嬢が言いふらしていたそうです。
いや僕は住んでいるんだ。
来ているのはお前らの方だろ。
そう強く思いました。