引き出し
中3の頃
部活が終わるとまっすぐ家に帰る時期がありました。
毎日ゲームセンターに寄っては波動拳やタイガーバズーカや忍法風林火山を繰り出し部活で活躍できない鬱憤を見知らぬ対戦相手に晴らしていたのに、それを我慢してまで家に帰っていました。
兄貴の部屋に潜入するためです。
4歳上の兄貴の部屋は思春期から大人へと移りかわる真っ最中の空間でした。
窓際に丁寧に飾られた飲んでもないバドワイザーの空き缶と吸ってもないセブンスターの空き箱、壁にはアイルトンセナのポスターと友達とのふざけた写真を貼り付けたコルクボード。
しかし。
僕の潜入目的はこれらの思春期アイテムを眺める事ではありません。
机の一番下の引き出しのさらに奥、僕のお目当てはそこにありました。
エロ本。
はっきり書いた方が気持ちがいいですね。
僕がまっすぐ帰宅していたのはエロ本を見るためでした。
ネット無き時代、何かモヤモヤとした衝動に心を突き動かされた時はこうして性と健全に向き合い心を満たしていました。
兄がいる弟は必ず通る道(セクシーストリート)なのです。
ある日
いつものように兄の部屋に潜入し、一番下の引き出しに手をかけ開いたその時です。
見慣れない四角い箱が姿を現しました。
ビデオです。
「わお」
と自然に言葉を漏らしながら全身のにやけがとまらない僕は気づけばそれをデッキに入れ全神経を親指に集め、ゆっくり正確に再生ボタンを押していました。
テレビに映ったのは何百回ダビングしたんだといわんばかりの荒すぎる映像。
しかし目をこらせば金髪でグラマラスな女性が裸で南国の島を優雅にただ歩いている光景が見えてきました。
BGMなのでしょうか、男性の低い声で 「アハン、ユーノー、アハン、ユーノー」という言葉が繰り返された洋楽が延々と流れています。
今思えば何がいやらしいのか謎ですが当時の僕にはたまりませんでした。
ビデオを見終わった僕は正確に巻き戻し丁寧に引き出しに収納。
バレたら終わりなのでこの作業はとても重要なのです。
その日の夜、兄貴とゲームをしていました。
何事も無かったかのように夢中で遊ぶ兄弟。
そこに一階の母親から「ご飯できたよー」の声が。
しかしゲームでテンションの上がりきっていた僕は兄にこう言ってしまったのです。
「ゴハン、ユーノー!」
流れる沈黙。
うつむく兄弟。
次の日から引き出しには鍵がかけられていました。