努力
中学の三年間はサッカー部でした。
以前も書いた通り試合中はベンチで監督の横に座ってお茶をすすっていただけです。
部員は13人なのに補欠だったのですから当時から愉快な運動神経だったとお察し下さい。
努力はしました。
サッカーの努力ではありません。
ベンチにいながら何かできないかというもの。
最初にやったのは『ただ者じゃない感を出す』でした。
試合中は監督の背後に立ち、ベンチコートの襟を立てながらタオルで口元を隠し腕を組みながらつま先立ちで試合をにらむ。
「あいつ、海外帰りの秘密兵器か!?後半あいつが出てくるのか!」
と相手チームに思わせ動揺させるのが目的でした。
「なぜ前半から試合に出ないんだ?」と思われた時のために時折胸をおさえて苦しそうにうずくまっては長時間のプレイを医者に止められてる『ガラスのエース』感も出していました。
勿論誰も僕の事を見ていませんでした。
それどころか監督に「しんどいなら帰り」と言われる始末。
これはすぐに諦め次に僕がした努力は『最高のスポーツドリンクをつくる』でした。
市販されているもので充分美味しいのですがそれでは目立てない。
研究の末僕が編み出した最高のスポーツドリンクは粉末状のポカリスエットを少し濃いめにつくり、そこにハチミツを溶かして入れる、コップに入れるときにもこれまた濃いめのポカリでつくった氷を投入するというものでした。
これがチームメイトに大評判で、ハーフタイムは僕のもとに行列が出来ました。
『スポーツって素晴らしいな』と思った瞬間でした。
そんな僕でも試合に出たことはあります。
部員が少ないため負傷者が出れば繰り上げ当選になるためです。
その日も両チーム無得点のまま均衡した試合が続き、試合時間は残り10分。
その時FWの河北君が足を捻挫してしまいました。
まわってきた僕の出番、颯爽とコートを脱ぎ捨て飛び出していきました。
しかしフィールドに入ったその瞬間、審判が僕にホイッスル。
「ピピー!靴破れてる!」
なんと練習だけ頑張っていた僕の右のスパイクは親指のところが破れてしまっていたのです。
しかし試合時間あと僅か。
半ば強引に再びフィールドに飛び出していきました。
するとまたホイッスル。
振り返るとまさかのイエローカード。
世界広しといえども『靴が破れていた』という理由でイエローカードをもらった人は僕だけでしょう。
勿論僕の最後の試合となりました。