子供の頃は声が高かったです
家に電話がかかってきて僕が出たら決まって相手は「もしもしお嬢ちゃん、お母さんにかわってくれるかなー」といいました。
小学校の音楽の授業時、皆の前で歌うと必ず笑われました。
声が高すぎて。
コンプレックスでした。笑われたくないからできるだけ低い声で喋るようにしていました。
早く大きくなって声変わりをしたかった。
それは中学2年の頃でした。
風邪もひいてないのにいくら頑張っても声がかすれるのです。
これは声変わりの初期症状。
ついにきた。
嬉しくてかすれた声で何度も「やったー!」と言ってました。
日に日に声はかすれていき「やったー」も「ザッザー」という汚い音にしかなりません(今の相方の声がちょうどそんな感じです)
しかしそこから声がかすれきり全く音が出なくなりました。
空気の出てる音しかしない。声変わりの過程でそんな症状が出た人なんて身近にいません。
そんな状態が一週間続きました。
「これ声変わりじゃないんじゃないか」
不安でした。このまま一生声が出ないんじゃないかと親も心配してました。明日病院に行ってみようかと話してました
そんな不安を抱えながらその日は眠りました。
そして起きると

「麒麟です」の声でした。

「…え?なんやこれ…え?え?」
自分の口から出される地を這うような音に驚きしかない中学生二年生の少年。
「え?」と発するのですがこの「え?」の音が低すぎて次の「え?」が出てしまうのでしばらく布団の中で「え?え?え?え?」と唱えてました。
その声で母親に
「おはよう」
目を見開いて「…なんやの…それ」と言って固まってしまった母。
確かに僕は声が低くなりますようにと毎日願っていましたが叶いすぎ。
中二にこの声は扱えません。
それからはいつもと逆、できるだけ高い声を出すようにしてましたが不意に出る低音の紳士的な「ありがとう」や「先生」にクラスが毎回ざわついてました。
国語の授業でもやたら朗読させられます。家にかかってくる電話も「お嬢ちゃん」から「ご主人」に変わりました。
しかしこの声のおかげでこの仕事では助けられています。
ドキュメントのナレーションも依頼されます(一番最近は『甦るシルクロード』という笑い0の番組です)
一度居酒屋で遠くにいる店員を呼んだらその店員は上を向きました。
自分だけに聞こえた神様の声だと勘違いしたようです。

でんごんばん CIDER inc.