中学生の頃は学校が終わればおばあちゃんの家に必ず寄っていました。
おばあちゃんの家はお漬け物屋さんを営んでいました。
僕の下校時間と店を閉める時間がちょうど重なるのでそれを手伝うためです。
樽を洗ったり明日の分のお漬け物を準備したりする。
それが終われば二人でゆっくりお茶を飲みながら世間話をしてお菓子をつまむ。
帰り際おばあちゃんは毎日お漬け物とお小遣いをくれるのでした。
しかし毎日のように顔を合わせるのでケンカもしました。
ささいなことから口喧嘩が始まるのですが僕が生意気な口をきいておばあちゃんの怒りが沸点に達すると振りかぶって投げてきました。

漬け物石を。

石を投げてダメージを与えようなんてゲームの中のサイクロプスしか使わない禁じ手。
それは威嚇ではありません。確実に僕の足に当ててやろうという鋭い軌道でスローイングされてきました。
間一髪かわしていましたが怒らせない方が身のためということは明確で僕が逆らうことは滅多にありませんでした。

おばあちゃんには僕を含めて4人の孫がいます。

その中でも家が近くてよく遊びに行っていたことや毎日お手伝いしていたこともあり僕の事を一番可愛がってくれてたような気がします。
そう。
それはとんでもないところで明言されました。

兄貴の結婚式での事。
おばあちゃんは一言スピーチをまかされました。
「あの子は昔から頼りない子でした。だから結婚なんてできないと思ってました」
昔の思い出も交えながら流暢にスピーチをするおばあちゃん
「でも頼りない孫ほど可愛いもんです。今日はおめでとうさん。お嫁さんと二人でお幸せに」
人の良さがにじみ出たあたたかいスピーチに大きな拍手が起こりました。
しかしその時

拍手をさえぎるようにおばあちゃんは言いました。
「でも、孫の中で私が一番好きなのは明です」

時がとまり静まり返る式場。
唖然とする新郎新婦、そしてご来場のお客様達。

なぜ最後にそんな事を言ったのか。

嘘のつけない真っ直ぐな信念はどこに行ってもブレませんでした。
スピーチが終わり僕に向けてニヤリとしたおばあちゃんの顔を僕は見ることができませんでした。

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