茜色の放課後

小学校の頃S君という親友がいました。
S君は二年生の時に転入してきたものの持ち前の運動神経と頭の良さですぐにクラスの中心人物と成り上がりました。

はじめて見た文武両道。

おまけに女子人気も高く、僕は『こんなに全てが順調な奴なん進研ゼミの漫画でしか見たことないぜ』と驚愕しました。
S君とは席が隣同士で家も近かった事もありすぐ仲良くなりました。

学校が終わればとにかく家まで石を蹴り続けて一緒に帰宅、そこからまたS君の家に行き日が暮れるまでサッカーを教えてもらっていました。

そんなある日

休み時間にS君は思いつめた顔で僕にこう言いました。

「今日の放課後な、ちょっとグランドに来てくれへん?」

女子からなら何かを期待してしまいそうな嬉しい台詞ですが相手は親友ながらも男子。

いや

そっちなのか!?

確かに女子人気が高いのに僕とばかり遊んでいるS君。

授業が終わればすぐ遊びに誘ってくれるS君。

そんなS君に放課後グランドに呼びだされた。

いや、しかし、やはり、いや、え、そういえば、しかし。

そんな言葉が頭を駆け巡り授業は頭に入りませんでした。

そして放課後。

親友の頼みから逃げるわけにもいかず僕は恐る恐るのスピードでグランドへ。

夕日の差すグランド、その隅にすでにS君はいました。

「お、おう、来たか」

緊張からか不自然な笑顔で僕を迎えるS君。

やはり

そうか

そう思った瞬間S君が口を震わせながらこう言いました。

「あのな…、実はな…

僕、…ゲップを好きな時に出せるねん!」

は?

何言うてんねんこいつ。

S君は熱く語りかけ続けます。

「好きな時にゲップが出せるんやけど何回連続で出せるか挑戦したいねん!多分100回はいけると思うねん!いや、いくねん!それを川島君に見届けてほしいねん!ウソやと思われたくないから!」

グランドの隅で二人きり。

時折苦しそうな表情を浮かべながらもゲップを出し続ける少年。

そしてゲップが出るたびに木の枝でグランドに記録していくもう一人の少年。

茜色の放課後。

そして気になるゲップの連続記録は

86回でした。

「また準備してやりなおすわ」

悔しそうな顔を浮かべるS君。

そんなS君がこの数年後には京大に入学するんだから人生はおもしろい。

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