着信音
先日見ました可愛らしい光景です。
始発の新幹線に乗って大阪へと向かっておりました。
早起きと予定通りの新幹線に乗車できた安心感から、新横浜を過ぎたあたりでとろみのついたような睡魔が膝の上に乗ってきましたので抗うことなく僕はウトウトとし始めました。
その時です。
ビリリリリリ!
ビリリリリリ!
ビリリリリリ!
朝の車内の静寂を引き裂くかのような大音量の着信音。
音の出所を見れば80歳ぐらいの清楚なご婦人が携帯を持ってあたふたしております。
まるで突然赤子が泣きだしたかのように慌てているご婦人。
携帯を開いて画面を見つめています。
ビリリリリリ!
ビリリリリリ!
ビリリリリリ!
その間も大音量で鳴り響き続ける無機質な着信音。
眠気を取り上げられてしまったのは僕だけではないようで、他の乗客もじろじろとご婦人を覗き込みます。
その視線を感じてさらに焦るご婦人。
電話をとらないんじゃなくてとれない、どうやらとり方がわからないようです。
再びパタンと二つ折りにしてもビリリリリリと泣き止まないガラパゴス携帯。
さらに覗き込まれるプレッシャー。
追い詰められたご婦人がとった行動は
なんと
携帯をブランケットにくるみ
自分の服をめくり腹の部分に入れて
丸まったのです!
布につぐ布、そして最後は己の肉体で音の遮断を狙ったのです。
ぐぐうっと丸まるご婦人。
それでもかすかに聞こえる着信音がとても愛らしかったのでした。
マナーモードが使えないので
自らの腹に入れて大人しくさせるという「マザーモード」を駆使するご婦人のお話でした。