年賀状

小学生の時『年賀状』がとにかく楽しみでした。
1月1日の朝は外で郵便屋さんが来るのを今か今かと待ち詫びたものでした。
そんな一大イベントだったわけですから誰にどんな年賀状を書くかも年末に悩みました。
かわいいデザインの年賀状が簡単に量産できるプリントゴッコなんて家電もありましたがうちはそんな贅沢は許されません。

手書きならではの『書体』『文面』そこに添える『イラスト』で僕は勝負していました。

出来のいい年賀状ほど親交度の深い友達宛てに送っていました。
年賀状には仲の良さを確かめあう役割もありましたが、気になるあの娘に突然送ってみてお返事を期待するという軽いラブレター的な使い方もできました。
僕は小学生の頃Oさんにずっと片思いしていました。
しかしそれを打ち明けることも出来ずなかなか会話もできない。
唯一の共通の話題は「今後のドラゴンボールの展開」だけでした。
年をまたいでもう一段階仲良くなりたい、そしてOさんが書いた年賀状が欲しい。
僕は勇気を出してOさんに年賀状を書くことにしました。
ありきたりな挨拶ではインパクトに残らず社交辞令だととられてしまう。
あれこれ考え絵の得意だった僕は新年の挨拶とともに、ハガキいっぱいにOさんの大好きな『ピッコロ大魔王(マジュニア)』の絵を描くくことにしました。
Oさんは悟空ではなくピッコロ大魔王が大好きだったからです。
ヒールさの中に時折みせる魔族らしからぬ戦士の美学にOさんは夢中になっていたのでした。
ピッコロを描けばOさんも喜んでくれる。

そう思い僕は細めのペンと色鉛筆を駆使し持てる画力の全てをハガキにぶつけて最高のピッコロ大魔王を描き上げました。
住所も書道五段の腕前で丁寧に書き記しその完璧な出来の年賀状を机において一息ついていた、その時です。
「なんや、それ」
親父に見つかりました。

「年賀状やん」

「女の子に出すんか」
「べ、別にええやろ」
「ちょっと見せてみ」

こういう時の親父というのはやたら嬉しそうです。

「これ何の絵や?」
「ピッコロ大魔王や」

そういうと親父の顔は豹変し突然僕の年賀状をビリビリに破いてしまいました。
「な、何すんねん!!」
信じられない行動をとった親父に突っかかると親父は大声でこう言いました。

「正月から魔族はあかん!!」

親父は誰よりも正月を大事にしてました。

でんごんばん CIDER inc.