テレビ
初めてテレビで漫才をしたのは12年前。
芸歴2年目の僕達は安物スーツに溶けそうな程アイロンをあてまくって某テレビ局に向かいました。
劇場では漫才にリハーサルなどありません。
しかしテレビ収録となるとマイクチェックやネタ中に放送禁止や差別的な要素が無いかの審査があるため若手にリハーサルは欠かせません。
200人が座れる客席にはスタッフさん6人がまばらにいるだけ。
そんな状況の中、本番同様のボリュームとテンションでリハをこなしていき、問題があればその都度ディレクターにとめられるのです。
これが恥ずかしい。
ハイテンションでやっているのに急に素に戻される。これが芸人にとってはかなり辛いのです。
一度も止められたくないと願いつつ僕らも人生初の漫才リハーサルに臨みました。
しかしステージに出てきてマイクを握り「麒麟です」を敢行した瞬間に「なにそれ?」と早くも止められました。
「…コンビ名が麒麟というので自己紹介を兼ねて僕が低い声で言うんです…」
自らのギャグを説明するこの恥辱。
しかしディレクターからものいいが。
「マイクにそんなに近づかれると音声さん困るな。どうしてもそれやりたい?」
『どうしても』と言われると恥ずかしさに磨きがかかりましたが震える声で「やりたいです…」と答えるとディレクターは渋々了承してくれました。
リハ再開。
順調に進んでいきこのまま終えれるかのように思いました。
しかし田村がマイクから離れて派手に踊りだすというパートにさしかかった時です。
「ストップ!ストップ!彼どうしたんだ?」
田村が突然常軌を逸して暴れだしたと認識されたのです。
「田村がマイクから離れて踊るんです。その動きに合わせて僕が喋るというネタで…」
「そうなの?このままどっか行くかと思った」
漫才中に突然浪漫飛行する奴がいるか。
しかしディレクターは続けました。
「センターマイクからそこまで離れちゃうと困るなぁ」
「大丈夫です。田村はそこ喋りませんから」
「でも彼なんか喋っちゃいそうだしね」
何故か理性を全く信用されてない田村。
次の瞬間ディレクターがとんでもない解決策を叫びました。
「よし!漫才がその部分に差し掛かったら客席から音声さんが舞台に上がって田村君にさりげなくピンマイクつけよう!」
え?漫才中に?舞台に上がる?さりげなく?音声さんは透明?じゃなければ放送事故必至!。
結局田村が踊らないネタをしました。