純粋

相方の田村よりピュアな人間を知りません。
コンビ組み立ての頃の話です。
携帯を変えた僕は番号が変わった事をみんな(といっても当時の登録件数4人)にメールで伝えていたのですが、相方に普通に教えるのもどうかと思いドッキリを企みました。
僕の新しい番号を相方が知らない事を利用してイタズラ電話をするという軽いドッキリです。
昼下がり、田村に電話をかけました。
「はい、もしもし」
木をすり合わせた様なザラついた声が聞こえてきます。
「もしもし田村さん?大阪府警ですけど」
声を変え僕は応対しました。
そもそも警察が090から始まる個人電話でかけてくるはずがないのですからもうバレそうなもんですが田村は
「え、警察?な…、なんの用ですか?」
明らかに動揺しています。思い当たる節があるのかとこっちが不安になりましたが僕は続けました。
「田村さんね、あなたに近隣の住民から多数の苦情が寄せられてるんですよ」
「え?苦情?なんですか?」
「顔が気持ち悪いという苦情です」
さあ田村よ、渾身の「なんでやねん!」を聞かせてくれ。
僕は期待していました。
しかし田村は
「…そうですか」
受け入れました。
住民から寄せられた顔面に対する苦情を受け入れたのです。
慌てたのは僕。ツッコミが無い以上イタズラを続行するほかありません。
「あなたの顔が法に触れてるんですよ。尽きましては3ヶ月以内に引っ越していただく、もしくは逮捕になります」
もうバレてくれという気持ちで咄嗟についた嘘は無茶苦茶でした。そんな思いとは裏腹に田村は
「…逮捕ですか。すいませんでした」
まさかの自首をチョイス!
絶対引っ越しの方がいいのに!
もう引き返せない僕は
「逮捕ね。じゃ夕方4時に淀屋橋駅前に来て。そこから署にご同行願うよ」
夕方4時に淀屋橋駅前というのは僕らのネタ合わせの待ち合わせ場所。しかしそんなサインももちろん相方はスルー。
力ない声で「はい」と返事し電話をきりました。
そして約束の時間。
淀屋橋駅にいくと田村はいました。
実の姉と。
逮捕されると覚悟して身内を連れてきたのです。
僕は田村姉弟の前に駆けつけスライディング気味に土下座しました。
そして全てを正直に話し謝罪しました。
すると田村は
「そうか。でも俺も川島に謝らなあかん事があんねん」
悲しそうな顔を浮かべ彼は言いました
「俺逮捕されるねん」
まだわかってませんでした。

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