村の英雄

僕らが昔所属していた劇場『baseよしもと』にはある暗黙のルールがありました。
それは
「テレビの収録現場や営業先で余った弁当があれば劇場に持って帰ってくること」です。
とにかく金の無い若手がぎっしりと集う小劇場。
一日一食もままならない芸人もいるので僕らがテレビ等に呼ばれたら帰り際にスタッフさんに確認をとって両手にかかえきれないほどの余ったお弁当をbaseよしもとの楽屋に持ち帰るのです。
「弁当持って帰ってきたぞー!」
「ウォォォォ!」

食料を獲得してきた村の英雄は若手に取り囲まれ地鳴りにも近い大歓声で賞賛されます。
代々続いていた風習でした。
僕らも仕事が無い時代は出番も無いのに楽屋で正座しながら『村の英雄』の帰りを待ったものでした。
冷えて肉や米が固くなった弁当。
しかし同じように金の無い仲間とくだらない話をしながら輪になって楽屋で食べるそれはやたら美味い。
その味を知っていたから僕らも先輩になった時はスタッフに少し馬鹿にされようが余った弁当は後輩に必ず持ち帰ったのでした。
ある日
大量の『あんこ』を楽屋に持って帰ってきた奴がいました。
「ロケでお世話になった業者がお土産にくれたんです。でも一人じゃ食べきれないんで」
ダンボールにぎっしり入った缶詰めのあんこ。
その数60缶、確かに一人では手に負えない量です。
それを囲みながらどう扱おうか思案している若手8人。
そこで僕は名案を思いつきました。
「今からコンビニやスーパー行って意外にもあんこに合いそうな食材を各々が探してきてここで一位決めるってのどう?」
とにかくこういう名誉も賞金も無い『遊び』が大好きな芸人。
皆は瞬時に散らばりそれぞれがあんこのパートナーを探す旅にでました。
一時間後再び楽屋に集合。
かまぼこやいなり寿司やするめなど様々な食材が集められ歓声をあげたり悲鳴をあげたりであんこパーティーは楽しく進みました。
結局塩が良いアクセントになったプリッツがMVPに決まりかけたその時
相方の田村が突然食パンを出して不適に笑いだしました。
「フフッ、みんなこれ忘れてるやろ」
そういうと田村は食パンに大量のあんこを挟み、それを豪快に食べ出しました。
そして絶叫。
「ほら!めちゃくちゃ美味い!たまらん!思った通りパンとあんこの相性抜群や!これ特許とれるで!」

それただのあんパンやん。
田村は失格になりました。

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