あのおじさん
前回は僕がオーディション時代に見た斬新な芸人について書きました。
しかしシュールすぎたが故に世に出れなかった芸人志望の方はまだまだたくさんおられます。
僕らと同じ時期に一緒に二丁目劇場のオーディションを受けていたおじさん。
安全ヘルメットに作業服という工事現場スタイルに身を包み、薄茶色のサングラスをかけています。
右手には紙袋を持ち
そしていつも
たくさんのヒヨコを連れていました。
ヒヨコにはそれぞれ糸でつくった首輪がつけられていました。
出囃子がなるとおじさんはヒヨコがヨチヨチとついて来れるスピードで舞台に出てきます。
そして舞台中央に座りこみヒヨコがおじさんのまわりをピヨピヨと囲みます。
しばらくその光景を見せつけた後、おじさんが紙袋から取り出すのは
ピコピコハンマーです。
そしてハンマーを構えて
ヒヨコを見下ろします。
まさか…
息をのんで見守る人達
たまらず悲鳴をあげてしまう女性のお客さん。
緊迫した空気が流れる中、おじさんは突然客席に向かってこう言いました。
「いや、たたきませんよ」
客席に流れる謎の安堵感
それと同時に鳴り響く不合格音。
おじさんは立ち上がりまたヒヨコがついて来れるペースで舞台から出て行くのでした。
おじさんは何度も何度もオーディションの舞台に来ました。
しかしいつもこのネタ(奇行)しかしません。
前回にも書いた通り2丁目劇場のオーディションは応募人数が多すぎて抽選で月に一度出れるか出れないかぐらいの狭き門でしたが
なせかヒヨコおじさんだけは驚きの強運を持っていたのか毎週出ていました。
そして毎週
「いやたたきませんよ」の所で綺麗に不合格音が流れるのでした。
後半はもう慣れてきたのかヒヨコの方が先に出てきておじさんが連れてこられるようなフォーメーションで舞台に出てきてました。
ヒヨコは新たに買っているのかいつまでもヒヨコで
おじさんもいつまでたってもおじさんでした。
今もどこかのオーディションに出没しているのでしょうか。
もうピコピコハンマーで叩いても何もこたえないぐらい強い軍鶏にひきづられているのでしょうか。
見かけたら教えてください。