不合格
養成所に一年間通い卒業公演を行ってもそれが終われば仕事が用意されているわけではありません。
そこから自分で見つけたオーディションに養成所にも通ってない昨日まで学生だった人達とも肩を並べてを合格を奪いあう日々です。
まずは吉本の劇場に定期的に立てるようにならなければ話にならない。
僕らが初めて受けたオーディションの舞台は今は無き心斎橋筋2丁目劇場でした。
日曜の昼に毎週開催されているオーディションライブ。
希望者が多すぎるためオーディションに出るための抽選もある程の狭き門。
運が良くてそれに出れるのは月に一回。
受かれば翌週もとチャンスはつながるのですが落ちれば無条件に1ヶ月はオーディションすら受けれない無職へと転落です。
3分のネタを持っていくのですが殆どのコンビは開始30秒あたりで笑いが無ければ
ファッファファッファッファッファ~ン
という情けない音が鳴り不合格を知らされ舞台から強制退場しなければいけないのでした。
逆に合格となればネタの途中であっても
テレテーッテレテッテテッテテー、デンデン!
とめでたい曲が大音量鳴り響きます。
僕も合格してこの曲をはじめて聞いた時嬉しさと驚きで40℃の熱を出しました。
しかし抽選に当たれば素人でも参加できるオーディションゆえに様々な人がいました。
僕が見て衝撃を受けた人の話をしましょう。
その人は30歳近い男性。
黒のタンクトップに黒のスパッツ姿。
自分の出番になるとスッと舞台の中央に立ちました。
背筋を伸ばしバレリーナのような美しい立ち姿でした。
しかし
何も喋りません。
何も動きません。
ネタを忘れたのか?
いや、その表情は自信に満ち溢れています。
何かをやってくれそうな気配。
それが劇場を支配しています。
無音のまま1分が経ちました。
しかしまだ不合格音は鳴りません。
審査員もこの『何かを起こしそうな気配』に圧倒され判断しかねているようでした。
しかし動かない彼。
2分が経過。
もうダメだ。
審査員がボタンを押し不合格音が鳴り響いたその時でした。
ファッファッファファッファッファ~♪
なんと
その不合格音に合わせて彼は綺麗なバレエを踊りだしたのです。
なんという芸。
その姿に客席は大爆笑。
『野球は3アウトから』
彼からはその言葉を学びました