ジャンプ
1999年
僕は吉本の養成所であるNSCに通っていました。
人見知りでまだコンビを組むことすらできておらず、授業では一人で震えながら画用紙を片手にネタをしていました。
授業が終われば大半の生徒がマクドナルドに行って夢や理想を語り合ったりするのですが僕にはそんな事を語り合う仲の人間もおらずそそくさと京阪電車で京都に帰るのでした。
唯一の楽しみはその帰りの電車の中で読む漫画だけでした。
その日も駅売店で買ったジャンプを大事そうに持ち特急列車に乗りこみました。
運の良い事に車内はガラガラ。
二人がけの席に座り缶コーヒーを開けジャンプを丁寧にめくり心地よい電車の揺れに身を任せ自分へのご褒美タイムが始まりました。
10分程過ぎた頃でしょうか。
誰もいない車両にに中年男性が移動してきました。
頭髪の過疎化が深刻なその中年は車内をうろうろと歩いています。
そんな事は気にとめず夢中でジャンプを読み進めていると
その中年男性が隣に座ってきました。
なんでここ?
先ほどから言ってるように車内はガラガラ。
他に座れる席はたくさんあります。
なのになぜ僕の隣?
しかし乗客がどこに座ろうとそれは自由なので疑問を感じながらも僕は再びジャンプを読みだしました。
しかし
察知せずにはいられないほどのすごい視線。
中年男性はニヤニヤと僕の顔を見てきます。
そしてこう漏らしました。
「かわいいねぇ」
なんで?
なんで俺?
よりによって馬面も甚だしい僕をなんで気に入ってるの?
しかし
痴漢に合った女性がたまに証言されるあれは本当なのを身を持って体験しました。
そう。
恐怖で声が出せないのです。
パニックになり喋るどころか身動きもとれなくなった僕。
その時中年男性の手が僕の太ももに触れました。
バシィィィーン!
反射的行動。
脳で考えるより先に僕の体は動き、持っていたジャンプで中年男性の顔面をかなりの強さでしばいていました。
しばかれた勢いでそのまま床に倒れる男性。
その隙を見てダッシュで隣の車両へ逃げる僕。
男性は追ってくる事はありませんでした。
男性への顔面に見事なスマッシュを決めたそのジャンプは奇遇にも新連載のため、あの『テニスの王子様』が表紙のジャンプでした。