書道
小学1年で書道教室に通い始めました。「美しい字を書ける方が将来有利だ」なんて真っ当な動機は無く、俺はダチと墨汁でバカやりながら文鎮を振り回し、半紙の向こう側を見たかっただけなんだ。
(仲良しの上村君が書道教室に通ってたから僕も真似しただけです)
小さな書道教室、生徒は10人。
静かな空間に墨を擦る音だけが心地良く聞こえ、その中で女の先生が厳格に指導してくれます。
半紙に「勝訴」と書いて走り回ったりできる雰囲気ではなく僕らも真面目に書道を学ぶしかありませんでした。
その甲斐あって4年の頃には初段になれました。
しかしそこからいくら頑張っても二段に昇格できず一年間初段のままでした。
しかし5年の頃、昇段試験に出した僕の作品が高く評価され全国の書道教室の生徒が使う教科書に掲載されました。
『雨降る夜』
とまぐれながら美しく書けた作品は教科書で誇らしげに輝いていました。
次の月、僕は五段に昇格していました。
「結果だ…、努力したなんて言い訳、結果を出さないとこの世界では這い上がっていけない」
小学5年の時に強くそう思いました。
そんな大人の厳しさまで教えてくれた書道教室でしたが唯一楽しみにしてたのが毎年開かれるクリスマス会でした。
その日はみんなで教室に飾りつけをしてケーキを食べます。厳格な先生もこの日は終始笑顔です。
その中でも一番楽しみだったのが最後に行われるプレゼント交換会でした。
一人一つプレゼントを持ちよって輪になりクリスマスソングを歌いながらリズムよくプレゼントを隣の人に回し、曲が終わった時に手元にあるプレゼントが自分の物になるという愉快な催しです。
しかし5年の頃のプレゼント交換会の事を僕は忘れません。
例年通りケーキを食べて交換会がいざスタート。そこで皆自分の持ってきたプレゼントを紹介するのですが。
6年の辻川君が持ってきたプレゼントは『大量の石』でした。
「昨日川に行って綺麗な石集めてきた。んで洗ったから」
サントリーの烏龍茶のダンボールにぎっしりと詰められた大量の石。重さ約5kg。
全員が「石ぃぃ?」と声を漏らす中、無情にもクリスマスソングが流れ出しましたが
持てるわけない。
正座をしながら重さ5kgの石の固まりを膝にのせては隣の人にまわす。
江戸の拷問です。
結局重さに耐えれずダンボールの底が割れ大量の石がこぼれ出してきました。
先生が小さな声で「メリークリスマス」と言いました。