相方探し
18の頃にNSC(養成所)に入学しました。
とにかく漫才がしたかったので相方を見つけるためです。
自分の性格と真逆の人間を探していました。
何をするにも熟考しすぎて前に進めなかった高校生活を考えるとグイグイ前に引っ張っていってくれる底抜けに楽観的なパートナーが必要だと考えていました。
簡単にいえば僕に必要なのは
『明るいバカ』
でした。
しかし人に話しかけることすらできない重度の人見知りだった僕が自分からコンビを組もうだなんて言えるわけもありません。
気づけば誰とも会話する事もなく、しばらくピン芸人としてネタをしていました。
「ええやん。おもろい発想やな」
普段厳しい事しか言わない講師にも毎回誉められました。
生徒達が羨ましそうな目で見てきましたがほんとは漫才がしたいのに何をしてるんだという葛藤しかありませんでした。
そんなある日の帰り道。
授業が終わり誰とも話す事もなく帰ろうとすると目の前に高さ180cmはあろう大きな砂の固まりが突然ざざざという音をたてて現われました。
何事かと思い目を凝らしてよく見ると中から顔のようなものが浮かび上がってきました。
驚いた事にそれは砂ではなく人だったのです。
これが田村との初めての出会いでした。
そんな顔面ハムナプトラ、いや田村の第一声がこれでした。
「自分オモロいやん。コンビ組んだろか?」
いきなりの上から目線。
「組んだろか?」なんて僕は口が裂けても言えません。
初対面でこの発言、そして彼の顔から僕の脳内コンピューターはある結論を一瞬にして算出しました。
『こいつは明るいバカだ!』
願ってもない理想のバカが向こうからやってきたのです。
田村は続けました。
「じゃあ来週水曜日までにネタ書いてきてな。一回どんな感じかみたいんだ」
とどまることを知らない上から目線!
しかも前半は関西弁なのに後半はプロデューサーぶって標準語!
混じりっ気のないバカが来た!
嬉しくて飛び上がりたい気持ちをおさえながら僕は無愛想に「ああ」とだけ返事をして足早に家に帰り早速漫才のネタを書き始めました。
そして水曜日。
養成所近くの公園で漫才の台本を田村に渡し初めてのネタ合わせ。
そんな記念すべき初めてのネタ合わせの第一声で田村は「はいどーも」を「はいもーど」と噛みました。
以来確かにずっと彼は「ハイモード」です。