バンド
数年前、あるロックバンド(仮に『A』としておきます)から仕事の依頼がありました。
「今度『A』のライブを開催する事になりました。そのステージで誰か芸人さんに漫才をして欲しいと考え話し合った結果メンバーみんなが麒麟さんがいいという事になりました。どうか僕たちのライブで漫才をしていただけないでしょうか?」
依頼文にはこうありました。
失礼ながら僕らはこの『A』というバンドを知りませんでした。
しかし自分達の大事なライブで漫才をさせてくれる、しかも全員が僕達を指名してくれた。
こんな嬉しい事はありません。
その気持ちに答えるためにどんなに小さなライブハウスであろうとお客さんが少なかろうと全力で漫才をしよう。
僕たちは二つ返事で出演を快諾させていただきました。
そしてライブ当日。
渡された住所通りに僕たちがたどり着いたのは
なんばHatchでした。
スタンディングなら1500人以上を収容できる広大なライブ会場です。
思ってたのと違う。
二人は早くも萎縮しながら入り口を猫背で通りました。
会場にあったポスターを見て気づいたのですがこれはワンマンライブでは無く『A』が主催するロックフェスだったのです。
何組かのロックバンドがライブを繰り広げその最後を『A』飾るというもの。
僕らの出番は『A』の前でした。
会場入りした僕らはまず『A』の楽屋に通されました。
ドキドキしながらも扉をノックし挨拶。
「はじめまして、麒麟です。呼んでいただいてありがとうございます」
しかし『A』のリアクションは
「ウィッス」
だけでした。
…え!?ウィッス!?僕らを呼んだんだよね?みんな僕らが良いって言ってくれたんだよね?ウィッス!?終わり!?ねぇ、終わりなの!?
本番前のピリピリとしたムードに耐えれず僕らはそそくさと楽屋から脱出しました。
出番が近づいてきたのでステージに近づくと
爆音で流れるロックサウンド、それに怒号のような声をあげ熱狂的に盛り上がる1500人以上のオーディエンス。
僕らの出番前にあたるそのバンドのボーカルはほぼ全裸で頭には戦国時代の兜をかぶり壁に頭を打ちつけ続けながらこう叫んでいました。
「お前ら全員、バカ野郎だァァァァッ!!!」
バカはお前だと思いました。
心の底から帰りたいと思いました。
この後いよいよ僕らの出番ですが