顔面蒼白
6年程前、まだ大阪に住んでいた僕らに東京のあるテレビ番組からオファーをいただきました。
『たけしの誰でもピカソ』
知ってる方も多いでしょう、2009年に惜しまれつつ幕を閉じた芸術に焦点をあてた人気長寿番組でした。
そんな中僕らが呼ばれたのは番組が選んだ芸人のネタをビートたけしさんに見てもらおうという企画でした。
スケジュールを見た途端に震えました。
それまでもたくさん漫才をやらせていただいてましたが『たけしさんが見ている』というのは若手芸人にとって恐怖にも近い特別な緊張感があります。
収録前日の夜
案の定寝れません。
幸い早朝からではなく、昼の12時の飛行機に乗って東京に行くので眠たくなるまでゆっくりと構えてればいいのですがやはりおさまらない緊張。
気づけば朝の9時。
もう寝ないで行った方が良いかなと支度をしているとようやく少し眠気が来たので軽くソファで横になりました。
目を覚ましたのは
昼の12時。
飛行機が飛び立つ時刻です。
顔面蒼白で荷物を持ち家を飛び出しタクシーでとにかく空港へと急ぎました。
1時間遅れの13時の飛行機に乗れましたが羽田到着は14時過ぎ。
そこから砧のスタジオまで早くても3、40分。
僕らの漫才の収録開始は15時。
少しの渋滞でもあれば芸能界よサヨウナラの場面。
しかしタクシー運転手の手腕や信号連続青の奇跡も手伝って僕がスタジオに到着したのは
14時57分。
すでに車内でスーツに着替えていた僕は汗だくで舞台袖に移動
番組が始まると同時に僕らは漫才をスタートさせることができました。
お客さんが暖かく漫才は大ウケし、チラッと司会席を見るとたけしさんも笑ってくれていました。
地獄から天国
再び熱を取り戻しだした僕の体温
全ての事に感謝しながら大爆笑のまま漫才を終えることができました。
しかし収録終わり
楽屋に戻ろうとすると
「おーい、麒麟」
たけしさんに呼び止められました。
再び走る緊張感。
駆け寄る僕らにたけしさんは言いました。
「今日ちょっとテンポおかしかったよなぁ」
なんという眼力。
漫才は大成功し誰にもわからないはずなのに僕の焦りからくるズレを見抜いておられたのか。
唖然とした僕らにたけしさんは続けました。
「まぁ、でもそれが田村のいいところだな」
僕じゃありませんでした。