第一声
2008年
我々は単独ライブを収めたDVDを発売することになりました。
麒麟として3枚目のネタDVD。
1枚目、2枚目のジャケットは自分たちの写真だったのですが3枚目は何か漫画家さんに自分達のイラストを描いてもらえないかと考えました。
そうは言っても漫画家さんとなんのつながりもコネクションも無い我々。
どうしようかと悩みながら出た結論は
直談判。
様々な漫画家さんやプロダクションに二人が直接電話をかけて「麒麟のイラストを描いてもらえないか」と恐れを知らずに交渉しました。
しかし
「そんなのできません」
「事務所から正式に依頼をしてください」
「イタズラ電話でしょうか?」
当然ながら相手にされませんでした。
やはり無謀すぎたこの企画。
諦めて僕が絵を描く事にしようと決めかけたその時
一本の電話が返っててきました。
「先ほどお電話いただいた件なんですが作者に相談しましたところ前向きに考えてくれるそうです」
受話器を持つ手が震えました。
それもそのはず。
その作者とはなんとあの
やなせたかし先生
ご存知『アンパンマン』の生みの親であり日本を代表する絵本作家だったからです。
「真剣な気持ちを手紙にしたためて事務所に送っていただけないでしょうか?それを読んで最終的に本人が判断してくれるそうです」
我々は一生懸命手紙を書きました。
いきなりお願いするなんて失礼は充分承知していましたが先生が教えてくれた『勇気』をもとにペンを走らせました。
そして10日後。
我々のもとにやなせたかし先生から大きな封筒が届きました。
封を開けると
中には僕らが動物のキリンになっている似顔絵でした。
作品の持つその圧倒的パワーに自然と涙が溢れました。
そうして我々の三枚目となるDVD『ジラフ』が完成したのです。
後日お礼を言わせてもらいたく僕らはやなせたかし先生のスタジオに訪れました。
案内されたのはアンパンマンの人形に囲まれた素敵な部屋。
「もう少ししたらこちらに先生が来ますのでしばらくお待ちください」
緊張しながら二人で待つこと数分。
扉が開き先生が入ってこられました。
感激のあまり動けなくなり直立不動の僕ら。
僕らを見たやなせたかし先生の第一声は
「田村さん、あなたエクレアに似てるねぇ」
でした。