営業
芸人には営業がつきものです。
テレビに出て知名度が上がると日本のあちこちにネタをしてくれと呼ばれるようになります。
しかしネタをするだけが営業ではありません。
結婚式やイベントの司会をしたり村おこしに参加したりと内容は様々です。
最近では祝日でもないのにオープンカー1台で市長とパレードしたり知識ゼロでビーチバレーの試合の審判をしたりうちわ職人の晩御飯に付き合うだけの営業もあるそうです。
(全部とろサーモンの久保田が今年体験した営業です)
僕らも昔愛媛で珍しい営業をしました。
それは『吉本新喜劇のエキストラオーディションの司会』でした。
一週間後に愛媛に新喜劇がくる、合格者はエキストラとして舞台に参加できるのです。
内容も簡単で、一人づつ舞台に出て特技などを自己アピールをする。
その後僕が「ごめんくさい」などの新喜劇王道ギャグを言うのでいかに綺麗にコケれるかというオーディションでした。
老若男女総勢50名程が参加し、照れながらコケるおばさまや緊張して泣き出してしまう女の子がいたりと和やかな雰囲気でオーディションは進みました。
しかし最後に現れたおじいさんの様子がおかしいのです。
目を見開き緊張のあまり肩で呼吸をし、出兵するかのようなテンションで敬礼をしながら自己紹介を始めました。
「自分はぁー!○○と申しまぁーす!72歳でございまぁーす!昔からの夢であるぅー!新喜劇の舞台に立てるぅー!かもしれないとのことでぇー!参加させていただきましたぁー!」
先ほどまでの和やかな空気から一変、異様な軍隊テンションに会場騒然。
しかし一生懸命な熱は本物、オーディションは続行。
気をとりなおして僕が「ごめんくさい」と言った時でした。
ドゴン!
受け身無しで後頭部から派手にコケるおじいさん。
いやコケるというより卒倒です。
衝撃を受けながらおじいさんに駆け寄り体を起こすと
「大丈夫でぇあります!どうしても新喜劇に出たいでぇす!」
気合いが入るあまり死を恐れない豪快なコケで勝負してきたのです。
その熱とは反比例して静まり返る会場。
しかしこの空気をなんとかしないといけないと思い僕は
「いや、おじいさんが出たら新喜劇やなくて新悲劇になりますわ」
とボケました。
すると
ドゴン!
ボケに反応してまた卒倒するおじいさん。
なんて敏感な命がけのセンサー。
結局そのおじいさんだけ不合格でした。