ウェイター
18歳の頃、養成所に通いながら地元でバイトしてました。
芸人志望のくせに極度の人見知りでは話にならないと思いショック療法として人気のファミレスでウェイターとして勤めました。
勤務時間は朝10時から夕方の16時まで。
ランチタイムの激闘さえ越えれば後は喫茶でくるお客さんの接客だけです。
だいたいこの時間はコーヒーさえ淹れれれば大丈夫だったのでホールは僕一人で任されてました。
お客さんも滅多に来ないのでコーヒーの香りを楽しみながらのんびりできるこの時間が大好きでした。
しかしある日
食事を終えてもなかなか帰らないお客さんがいました。
真ん中の席に向かい合うように座っているグラサンとメガネの男性二人組。
食後のアイスコーヒーを飲み終えてから1時間は経っています。
注意すべきかなと思った瞬間、いつもは誰も来ない時間帯なのに20人程のお客さんが続々と詰めかけてきました。
突然の事に焦りながらも僕一人で各々を席に案内。
各テーブルに運ぶ水を必死に入れながらホールの様子を見ていると、なんと先程の二人組が突然大声で喧嘩をしはじめたのです。
「どうしても金返さんのかコラッ!」
「なんで借りてもない金まで返さなあかんねん!」
Vシネマのようなやり取り。
こんな会話本当にあるんだと呆気にとられているとさらにメガネが声を荒げます。
「誰がそんな金借りたんじゃ!俺は返さん!」
どうやら借金のトラブルです。
しかし次の瞬間とんでもない光景が。
「おお言ったなコラッ!おーい、コイツ金返さへんねんてー!」
グラサンがこう叫ぶと店内にいた20人の客が一斉に立ち上がり全員がそのテーブルを囲みだしたのです。
恐すぎ。
全員金を貸したであろうグラサンおじさんのお仲間だったんだね。
囲まれた方の男性はうつむいて意気消沈。
僕は目を見開き口角を上げドラクエのスライムの顔をつくり何も知らないふりをする事で精一杯。
その時、20人の内の金髪の人が僕に言いました。
「おい兄ちゃん!横山さんにアイスコーヒーや!」
ああ
関わりたくないよう。
しかしそんな事は言ってられない。
アイスコーヒーをつくり震える手でグラサンさんの前に置きました。
すると金髪が
「おい、それ吉岡さんだろ!」
知らんがな。
こんな時に『誰が横山さんでしょう?のコーナー!』なんてやってる余裕無いわ。
今までの人生で上位の恐怖体験でした。