金縛り
新幹線に乗る度に金縛りになっている時期がありました。
大阪から始発で東京に行き仕事をして夕方に大阪に戻りまた仕事、そして最終の新幹線で再び東京に移動するという「東海道大往復」が毎日繰り返されていた時期です。
余談ですが他にも小忙しいパターンとしては東京→名古屋→大阪→東京の『東名阪反復横飛び』や大阪から新幹線を乗り継ぎわずか8分の出番のために5時間かけて東北に向かう『セミファイナル』というパターンもあります。(長い年月をかけ土の中で耐えてきたのに華やかな地上に出れば僅かな時間しか活躍できない様子がセミのようで、そして到着が一番遅く出番も必然的に最後になるので『セミファイナル』です)
当時はとにかく移動が多く睡眠時間はほぼなかったので新幹線で寝るしかありませんでした。
そんな毎日を続けていると新幹線で目覚めた時に「金縛り」状態になってる事が多くなったのです。
品川で降りたいのに体が動かず東京駅まで連れて行かれてしまう事もありました。
それに悩んでいると当時のマネージャーからアドバイスが。
「金縛りになったら心の中で『やめろ!』と叫べばいいんですよ。自分を奮い立たせる気持ちで」
そもそも貴様が仕事のペース抑えてくれたら金縛りにも寝不足にもならへんねんぞと思いましたが、そんな事を伝えてしまったら明日から超黄金週間(スーパーゴールデンウイーク)に突入させられてしまう世界なので「はい!気合いすね!」と笑顔で返事しました。
しかし何人かに「金縛りの時は心の中で叫べ」という気合い論を説かれたため実践してみたくなりました。
そして大阪から東京へ移動の日、僕にとって勝負の時。
疲れていた僕は新幹線に乗り込むなり眠りました。
2時間が経ち僕が目を覚ますと
安定の金縛り
「来た」
金縛り独特のあの朦朧とした意識の中で僕は気合い論をぶつける好機を探っていました。
新幹線は間もなく品川に到着、しかし体は苦しく動かない、ここぞというタイミングで僕は叫びました。
「やめろぉぉぉぉ!!」
その瞬間体がフッと軽くなり全身に自由が。
そう、金縛りがとけたのです。
完璧でした。
…いや、一つ失敗した事が。
気合いを入れすぎた僕は「やめろぉぉぉ!!」を心の中ではなく実際に口に出して叫んでしまっていたのです。
ふと横を見ると隣に座っていたサラリーマンが驚いた顔をこちらに向けながら、サンドイッチ食べるのをやめてました。