教師
僕らが学生の頃は宿題を忘れたら先生からビンタをもらうなんて当たり前でした。
「体罰だ!」なんて訴えるものは一人もなく、それより『頬のどこでビンタを受ければ痛くないか』『ビンタの瞬間は力を抜いた方が痛くないから歯を食いしばるのは逆効果だ』など休み時間に話し合ってはビンタのリハまでしてました。
(その休み時間に宿題を完成させビンタそのものを回避しようという賢者は一人もいませんでした)
どの学校にも一人は怖い先生がいたものです。
中でも僕が一番怖かったのは高校の時に国語の担任だったA先生。
A先生はビンタなんて優しいものではありません。
拳(こぶし)です。
宿題を忘れたり逆らったりすれば重たい拳がおでこにズンと打たれます。
自分が怒ってる事に怒りだして手がつけられなくなることもありました。そういう意味でも怖い先生でした。
ある日の家庭科の授業中の事です。
家庭科の先生は気弱な女性だったので教室は無法地帯と化していました。
机に座り大声で喋る男子達、ウォークマンで曲を聞かせあう女子達、大きな紙に自作の迷路を書いてはその迷路を自ら攻略している第三勢力(僕)
それを注意せず先生は淡々と授業を進めていました。
その時、すごい勢いで教室の扉が開かれました。
現れたのは真っ赤な顔で爆発しそうなA先生。
「お前らぁぁ!やかましいんじゃあぁぁぁ!」
無法地帯の騒音が隣で授業をしていたA先生の耳に届いていたのです。
全員が「あ。終わった」と思いました。
「男子一列に並べぇ!」
さすがに女子には手を挙げないA先生。男子はボコボコだろうなと覚悟したその時、家庭科の先生が諭すように言いました。
「A先生、体罰はだめ。生徒を殴ってはいけませんよ」
この人は聖母か。
あれだけ邪魔をした生徒をここでかばう慈愛の教師が男子にはマリアに見えました。
しかしそれではおさまらないのがA先生。ただ家庭科の先生の無視はできない。そこで閃いたA先生の案がこれでした。
「よし!俺が拳を前に突き出しておく!お前らは助走をつけてこの拳に顔をぶつけてこい!」
すごい発想。自分では殴ってない、ただ拳にみんなの顔がぶつかってきただけ。だから体罰ではない。
ピッチャーが投げれないならキャッチャーが来い理論。
生徒が一列に並び助走をつけて次々と先生の拳に顔をぶつけていくシュールな空間。
拳に顔が当たるたびに家庭科の先生が「ヨッ」と謎の合いの手を入れてました。